ほめる訓練にはよい対象を選ぶ

私の講座では、「ほめること」を職場や家庭などで実際にやってみて、それについて分析してレポートを提出していただくことにしています。

ちょっと前ですが、講座を受講されたある方は、散々考えたのだが、どうしてもほめる対象を自分のまわりに見つけられず、ついに締め切りがきてしまった。

そこで、自分の飼っている犬をほめたというのです。

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これには、私も驚愕しました。

効果はそこそこあったらしいんですがね。犬と言っても人間の三歳児くらいの理解力はあるといいますから、簡単な言葉なら通じるでしょう。たぶん、犬好きの方は全面的に同意してくださると思います。

もし犬が三歳児なみであるなら、非常に純真でしょうから、ほめればとてもよろこんで言うことをきいてくれるかもしれないなと私は思いました。

私はどうコメントを返したかって?

「機転がきいていて、素晴らしい」と一応ほめましたよ。

でも、それ以後は、動物や自分自身をほめることは禁止しました。

動物と違って大人の人間はなかなか一筋縄ではいかない。それを練習しないといけないのですね。

だいたい、人間は、自分の思っていることを正直になんかなかなか言わないですから。だから、顔色見たり、態度を観察して、本当の肚を見抜かないといけません。

そういう訓練もしてほしいんですけれどね。

「京の茶漬け」という落語を知っていますか?

京都ではお客さんが帰ろうとして、履き物をはいてしまってから、「お茶漬でも一膳食べておいんなはれ」という習慣があるそうです。まさか「そうどすか」とは言わないことを見込んで言うのだと、京の人の悪口をいう人がいました。

ある大阪の商人が、一度あの「京の茶漬」を食べてやろうと、わざわざ昼時に京都の知人を訪ねていきました。

「何もおへんけど、お茶漬けでも一膳……」

予想どおり、客の帰りがけを狙って言う、例の京都人のカラ世辞がでました。
しめしめと、大阪商人。

「さよか、ほんならよばれましょ」

ところが、でてきたのは、ほんとに冷や飯と梅干し半分の茶漬けだけ。

意地になった大阪商人は、サラサラとかきこんでから、茶碗を宙に浮かしました。これ見よがしですね。「どうぞ、おかわり」の声を待ったわけです。

しかし、京のお内儀は何も言わない。

大阪商人は仕方ないので、茶碗をほめました。

「けっこうな清水焼ですな。たこうおましたやろ」

茶碗をひね繰り返しながら、茶碗の中がカラなのをなんとか見せつけようと言う。

すると、お内儀のほうは、

「はぁ、このおひつも輪島塗りですねん」

カラのおひつを、中まで見えるようにさし上げた。

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■リーダーシップ向上に関する参考書籍

本稿は佐藤直曉著『リーダー感覚――人を指導する喜び』(鳥影社)の一部を抜粋引用しながら、加筆したものです。

本書はL研リーダースクールの通信講座初等科Ⅰのメインテキストです。初等科Ⅰでは、人の心を動かす訓練としてほめる訓練を実践していただきます。この講座は、受講生に技術的アドバイスを行うとともに、受講生の成長を見守っていく実践型プログラムです。

解説・立読みはこちらからどうぞ