コミュニケーションスキル以前

小倉久寛さんがまだ売れていないころ、コマーシャルの仕事が入りました。

それは慣れないサラリーマンの役。

(実際、若い俳優のなかには、背広が全然似合わない人がいますね。ふだん着慣れてないからなんでしょうね)

いざ撮影が始まったのに、監督からなかなかOKが出ない。そのうち「ちょっと休憩しよう」という声が監督から出たそうです。

その休憩中に小倉さんは監督に呼ばれて「君、今日はもういいよ」と言われる。

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どうなるんだろうと思って、撮影再開後の様子を見ていたら、自分の役をなんと自分のマネジャーがやっていたんだそうです。

このときは、ものすごいショックを受けたそうです。それはそうでしょう。役者じゃない人が自分の役をやってるんですから。

それ以来もう自信喪失。毎日が暗闇。それで、劇団のトップの三宅裕司さんにわびを入れにいったそうです。すると、こう言われた。

「まだ小さいうちに失敗してよかった。大きくなってこんな失敗をしたらたいへんだった」

これを聞いて、小倉さんはすごく気が楽になったそうです。そして、このときの三宅さんの言葉を一生忘れないと言っています。

この例は、「今の小さい自分、小さい劇団」という世界に対して、「ビッグになった大きな世界」を提示して、失敗を相対的に小さく見せているわけです。

暗示の技術論としてもたいへんおもしろいのですが、それ以上に三宅さんのリーダーとしての資質を認めるべきでしょうね。

もし三宅さんがこのとき怒鳴ったら、小倉さんは終っていたかもしれませんね。

失敗したとわかっている人を怒るのは、たいがいが自分の鬱憤晴らしにすぎませんね。