コミュニケーション能力とほめる技術

ファッションデザイナーの芦田淳さんが、マンスフィールド元駐日米国大使とはじめて出会ったときのエピソードを紹介しましょう。

それは、大使が日本に赴任してきたときのレセプションパーティーでのことでした。

社交辞令を済ませてさっさと帰ろうと思っていた芦田さんでしたが、たまたま大使が目の前にいたので、勇気を振り絞って声をかけたそうです。

「大使、すてきなスーツをお召しですね」

すると大使も、

「君もいいワイシャツを着ているじゃないか」といたずらっぽく答えました。

その瞬間、その場の空気がパッと和んだそうです。

なかなか、いい話です。会話でこういうジョークをうまく使えるようになると、コミュニケーションがスムーズになるのでしょうねえ。

さて、私は拙著『伝動戦略』で、「褒めるなら着物や持ち物を褒めるより、能力とかよい性格を褒めた方がよい」と書きました。

しかし、これは一般論でして、状況にもよるわけです。

だいたい、自信をもっている人に対しては、そのことを褒めるのはあまり効果がありません。

たとえば自分のことをとても頭がいい人間だと思っている人に、「あなたはほんとうに頭がいいですね」と言ってごらんなさい。

まあ、ほとんど無視されます。社交辞令で「有り難う」とは言うかもしれませんが、ほとんど効果はありません。

また、大金持ちに「あなたはたいへんなお金持ちなんですね」と言ってもやはりそうでしょう。

当たり前のことに人は感動しないものです。しかも自分より貧乏な人に褒められてもうれしくもなんともないでしょう。

人間には「褒めてもらいたい人」というのがありますね。「あの人に褒められたら俺もたいしたものだ」と思える人のことです。

やはり、一流の人から褒められた方がだいたいはうれしい。プロ野球の新人選手が、王さんやイチローから褒められたら天にも昇るほど嬉しいでしょう。

でも、草野球のファンに褒められても、嬉しいことは嬉しいでしょうが、王さんたちほどの感激はないでしょう。

マンスフィールドさんにとっては、「スーツを褒められる」のはおそらく当たり前のことではなかった。仕事のこととか過去の経歴とは全く関係のない話だからです。しかも、褒めてくれたのが超一流デザイナーでしたからよけい効果的だったわけです。

マンスフィールドさんは既にお亡くなりになっていますので確かめようがありませんが、私の意見はたぶんそう間違ってはいないでしょう。

ほめ言葉というのは、ほめるべき相手の状況と、自分と相手との関係や立場によって、同じ言葉でもきくときとあまりきかないときがあるのです。ここにコミュニケーションの難しさがあります。

私は、これを「カスタマイズ能力」と言うときがあります。

今回はほめ言葉についてですが、リーダーが部下を育成したり指導したりするさいにも、部下の状況と、彼我の関係や立場を考慮しないといけないと思います。