コミュニケーション能力向上:暗示的な言葉使い

暗示力などというと、催眠術を使うようにして何かを思い込ませてしまう、といったことを思い浮かべる方がいるかもしれません。

私がいう暗示力というのはそういうものではなく、もっとシンプルなものです。

どんなことかは、例を見ていただいた方がよいでしょう。

以下は、NBonline 梶原茂の「プロのしゃべりのテクニック:【12】ジャパネットたかたの本当のすごさ」(2008年6月19日)の引用です。

ジャパネットたかたの高田明社長が「大型液晶テレビ」を紹介しているさいの内容です。

「(あの、独特の声の調子を思い浮かべて)

 「大型液晶テレビ。画面が大きいんです。画面が大きいと、家族みんなで見られるんです。皆さん! これまで小さなテレビを別々の部屋で見ていませんでしたか? この大画面液晶テレビ! 大きいですから居間に置きますね。くっきりはっきり大型、大画面液晶(高田社長はあえて同じ言葉を何度も繰り返すのが特徴)。家族みんなで見たいですね。お父さんも、お母さんも、お子さんたちも、おじいちゃんも、おばあちゃんも。どうです。家族が1つになって、1つの液晶大画面を見る。昔みたいな家族だんらんが戻ってくるんです」

梶原氏はこう解説しています。

「高田社長は、商品の性能を細かく説明するより、その商品を購入することで、一家にどんな幸せが訪れるかをイメージさせることに心を砕くのが常だ。

『家族だんらんかあ。懐かしいなあ。ばあさん、わしの年金の積み立てで買ってもいいかなあ』

 あのハイトーン、ハイスピード、長崎なまりもすごいけど、高田社長が本当に優れているのは

「幸せのイメージを伝える力」なのだ 」

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最近では、「テレビは一人で見るもの」から「居間で大型画面を家族で見る」という新しいライフスタイルも出現し始めているそうです。

テレビは一人で見るものだったのか。私は遅れているようです。

それはともかく、梶原氏が指摘するように、ジャパネットたかたの社長さんのイメージを思い浮かべさせる能力はたいしたものです。これが私のいう暗示力なんです。

人間は、耳で聞いた言葉からイメージを思い浮かべる。そのイメージこそが、人間の行動力のもとになるのです。そこで、イメージを意図的に浮かべさせることを暗示といいます。

昔の人もそういうことは一生懸命考えていた。

能の中興の祖である世阿弥は、人間の癖を巧妙に取り入れています。「先聞後見(せんもんごけん)」です。

能では、まず言葉を耳に聞かせ、しかるのちにそれに応じる仕草をして見せる。

たとえば、泣くような場面。まず「泣く」という言葉をはっきり聞かせておいて、それから袖で顔をぬぐうような仕草をする。これが効果的だと世阿弥は言います。

「泣く」と聞いて観客にイメージがわき、そのイメージと演者の仕草が一致するので、観客は心地よいわけです。

これを、逆にして、「悲しい仕草」をしてから、「泣く」と聴いても、言葉があとに取り残される、と世阿弥は言う。

言葉を用いるというのはなかなか難しいものですね。

高田社長の場合は、前段で居間に大型液晶テレビを置くと言っています。これで、居間におけるテレビのイメージが視聴者に浮かぶ。

そのあと、家族のだんらんに話がいく。そこで、「大型液晶テレビと一家団欒のイメージ」がつながります。

そして最後に液晶テレビが映し出されて、セールス・トークになるという仕組み。

きっと、こういうような流れで、視聴者のイメージをうまく喚起し、コントロールしているのでしょう。

もちろん、私が思いつかないようなもっと高度なテクニックを高田社長は駆使して、イメージを喚起させているのでしょう。そのあたりの研究は、ビジネスにおいてもなかなか使える技術だと思いますね。

リーダーの暗示学(詳解)