最近の若い人は、へたに叱るといやになって、会社をすぐ辞めてしまうようです。あるいは、妙に卑屈になって、閉じこもってしまう人もいるようです。それで、昨今の上司は部下を叱ることができなくなっているのでしょう。
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私は自分の部下をもった経験はあまりありませんが、かつて研修教育を請け負ったとき、顧客の若手スタッフをよく叱りました。一生懸命になると、つい怒鳴ってしまうのです。若気の至りでしたね。
叱ったあとというのは、実に気分が悪いものです。はたして自分の言ったことがちゃんと通じたかどうか、いじけて反抗しないかどうかなどと、心配で仕方なかったものです。
この研修会は、プレゼンテーションの能力アップが目的でした。月一回くらいのペースで行いましたが、毎回グループごとに発表してもらい、発表が終わると講評をして、改善点を指摘し、次回までにそこを直して、また発表してもらうわけです。
ところが、ある人は、私の言ったことをやってこなかった。それで私は猛烈に怒ったのです。
「どうして、言われたようにやってこないのですか。前回、これこれのことを調べるように言ったじゃないですか」
この人は、なんで一ヵ月も前に言ったことを、私がこと細かくしぶとく覚えているのか、不思議そうにしておりました。これは、別に私の頭がいいからではありません。長年の経験から、分析の勘どころと、それを整理して覚えておく筋道が頭に入っているので、その筋道をたどれば、前のことがすぐ思い出せるのです。
幸いにも私が指導した人は、へんにめげたり、反発することはありませんでした。あとで「怒られて嬉しかった」とさえ言っておりました。私がその人のことを思って怒っているのがわかったからだそうです。また、怒る理由が正当で納得できたからだとも言っていました。
この例のように、きちんと理由を説明できれば相手も反発しません。相手が反発するのはリーダーとして説得能力がないか、事態を的確に分析できていないからです。理由も示さず頭ごしに怒鳴りつけたり、自分の不満や不快感を発散させるだけでは、部下はついてきません。
今の若い人は成長志向が強いのですから、自分の成長を願って怒ってくれているのだとわかれば、叱っても通じると思います。通じないのは、リーダーとしての能力に問題があると考えるべきでしょう。
■リーダーシップ向上に関する参考書籍
本稿は、佐藤直曉著『リーダー感覚――人を指導する喜び』(鳥影社)の一部です。
本書はL研リーダースクールの通信講座初等科のメインテキストです。初等科1では、人の心を動かす訓練としてほめる訓練を実践していただきます。初等科2では、説得技術、叱る技術、認める技術を扱います。初等科の講座は、受講生にコミュニケーション技術のアドバイスを行うとともに、受講生の成長を見守っていく実践型プログラムです。