声なき声から人間を見る

私は整体を勉強しているので、人間を見るときずいぶん有利なことがあります。

ある大手企業の戦略立案のコンサルティングを行っていたときのことです。私はサブリーダーとして働いておりました。

その企業の戦略が子会社とどう連動しているか見てほしい、ということになり、我々数人で、子会社を訪れました。

そこで、一日かけて、何人かの幹部と面談しました。

最初は子会社の社長が出てきて、概要を話されました。

そのあと、担当者がひとり1時間か2時間くらいでしょうか、資料をまじえて説明してくれました。

ところが、社長はずっと、インタビューの会議室につきっきりなのです。ずいぶん熱心で親切な人だなと、初めは思いました。
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そうやって昼も過ぎ、3時過ぎたころでしょうか、4人目か5人目の人になりました。

その話を聞いていた私は、午前中の人の話とダブルようなところが出てきたので、何気なくたずねたのです。

「午前中の話との関連はどうなっているのですか」

担当者はへんな顔をしました。「まずいな」というような顔つきです。

すると、今度は付き添っていた社長が、いろいろ説明を始めました。

ところが、この社長が突然喘息のような咳をしだしたのです。咳をゴホン、ゴホン、苦しそうにしながら、一生懸命、我々に説明してくれるのです。

私はどうしたのかなと思いましたが、そのときふと気がつきました。

異常に緊張すると、咳が出る人がいる。こういう人は上胸部にある特徴が表われます。

そう思ったら、では、社長は何を緊張しているのだろうかということが頭によぎりました。

次の瞬間、私にはわかりました。

彼らは親会社からコンサルタントが派遣されると聞いて、あわてて資料をつくったに違いありません。きっと徹夜でもしたのでしょう。

子会社に出向させられた人たちは、親会社の意向にいつもビクビクしているのでしょう。サラリーマンの悲哀でしょうか。

「そうか」

私は心の内で得心しておりました。

私には、社長の咳が、「武士の情け、これ以上聞いてくれるな」と言っているように聞こえました。

私は「ああ、そうですか」と言って、それ以上質問しませんでした。会議はお開きです。

我々の業務とは直接関係ないことだったので、このことは私の腹におさめておきました。

人間分析というと心理分析ということにほとんどなりますが、肉体のことも勉強しておく方が圧倒的に有利です。