相手の立場で考えるさいの盲点

相手の立場に立って考えよ、というのはよく聞かれる言葉です。

それに関連してですが、「役割交換法」というものがあるそうです。

異なる意見を主張する2人が、立場を交換して発言するという手法です。

こんな感じでやるのだそうです。

上司のAさんは部下のBさんに資料を集めてもらおうと思いました。そこで、Aさんは「よさそうな資料を集めてくれ」とBさんに命じました。

しかし、その指示にBさんは納得できません。

「どうしていつも曖昧な依頼しかしないんだ」と腹を立てる。

こんなときに「相手と立場を交換し、意見を主張してみる」という試み。これが役割交換法です。私はこの方法をあまり信用していませんが、こんな感じでやるのだそうです。

====

たとえば、AさんはBさんの立場で、「Aさんが具体的な指示を出してくれないから、どんな資料を探してくればいいか分からない」と、Bさんの言いたいことを言います。

一方、BさんはAさんの立場で、

「おおまかに資料を集めてくれれば、その中から必要な資料を考えられるかもしれない」

と、Aさんの考えが理解できてきます。

こんなことを繰り返していくと、お互いのことがだんだん理解できてくるというのです。

やがて、Aさんも

「良さそうと思える基準がまったくない状態では、資料を集めようと思っても何から手をつけてよいか分からないだろう」とBさんの問題に気づくかもしれないというのです。

なるほど、そういうふうに心理カウンセラーさんは考えるんですねえ。

しかしですねえ、こんなことを現実の社会でやりますか?

意見対立をしてカッカしている人たちが役割交換法をするなんて、私にはとても思えませんが。

部下はやってもいいと思うかもしれませんが、上司は絶対拒絶するでしょう。

あるいは、いまの役割交換法を1人2役でやる方法もあるそうです。これを行うと、上司の立場や部下の立場が理解できるそうです。

まあ、こちらの方が上の方法よりいくらかは現実的でしょう。

しかし、相手の立場に立つだけでは問題は解決しないだろうと私は考えております。

そもそもこの問題には二つの問題が隠されています。

ひとつは、Aがリーダーとしての資格がないことです。問題を把握できず、部下に的確な指示ができない可能性がありますね。もしそうなら、こういうリーダーは、辞めてもらった方がいい。

もうひとつの可能性は、上司が自分の行動基準を部下に押しつけてしまう癖です。

いくら相手の立場に立っても、自分の価値観、自分の感受性、自分の行動基準で立っていたら、相手の行動が理解できるはずなんかないんです。

上の例でいえば、Aは性格的に大ざっぱなところがあるかもしれない。あるいは、あまり頭で考えずに体が先に動くタイプかもしれません。

一方、Bは几帳面なタイプで、言われたことはそつなくこなすが、言われないことには行動できない融通のきかないタイプかもしれません。

そういう人間分析をきちんとしたうえで、AはBに指示を出すべきなんです。

自分と同じ行動基準で動くはずという錯覚を人はよくやるんです。これが立場分析の危ういところです。

私ならBにこう言うかもしれません。

「これこれこういう理由で資料が欲しいので、その目的にかなうように資料収集をしてくれ。特に、これとこれとこれのポイントは、はずすな。キーワードは、●と△と□だ」

もし、長年一緒に仕事をしていて話がツーカーなCであれば、「悪いが、あれいつものようにやっといて」くらいでも通るかもしれません。

勘がよく信頼のおけるDには、「任せるから、好きにやってくれ」でいいかもしれない。

相手を見て指示を出さなければいけません。全部Dのような指示を出したら、ほかのタイプはひっくり返ります。いずれにしろ、この例は上司の方に問題があると思います。

言いたかったことは、相手の立場になるというのは実は中途半端なことだということです。さきほどのAだったら、「俺がBの立場なら、しのごの言わず、すぐに資料集めに走るのに」くらいしか思いつかないかもしれません。

ともかく、相手の感受性を理解せずに、また人間分析をせずして、相手の立場に立つことはかえって害を招くくらいに私は考えております。