コミュニケーションスキル:なぜほめて失敗するのか

前回、ほめることの問題点に触れました。なぜ、ほめると失敗することがあるのか。

リーダーコミュニケーションとほめる技術

それは、その次から、ほめられるために何かをしようとするようになるからです。

何かをやって結果としてほめらえるのと、ほめられたくて何かをやるのでは、まったく違ったアウトプットになってしまうのです。

自分らしさがなくなるということもありますね。

このあたりのことは、おわかりいただけるでしょう。

故西岡常一棟梁は名人と呼ばれた人で、宮大工の棟梁として法隆寺の昭和大改修や、薬師寺金堂復興などに大活躍されました。

その西岡棟梁は、子供のころ、やはり名人と呼ばれたおじいさんに厳しく仕込まれたそうです。

おじいさんは、たいへん腕がたつ人でしたが、とにかく厳しい師匠だったようで、西岡棟梁のことをほめたことは一度もなかったそうです。

そんなおじいさんですが、棟梁の母親には「よくやっている」というようなことを、そっと言うのだそうです。

すると母親は、棟梁が母親の手伝いをしているときなどに、何気なくそれを伝えるのです。これはたいへん嬉しかったそうです。

なぜ面と向かってほめるのはよくないと、おじいさんは思っていたのでしょうか。

うかつにほめたら天狗になるから、という懸念もあったかもしれません。しかし、それ以上に心配なことがありました。

人間は一度ほめられると、今度はほめられたくて仕事をするようになるからです。

そういうとき、職人は人の目を気にして「こんなもんでどうやろ」とか、「いっちょう俺の腕を見せたろ」と思って造るようになりがちです。

しかし、そうやって造られたものには、ろくなものがないというのです。

これに対して、母親から聞かされる間接的なほめ言葉は、素直に受けとめることができたそうです。

そういう気持ちになるのは、ほめてくれる人と直接対面していないからでしょう。