欲求をあえて中断させるコミュニケーションスキル

コミュニケーションでは相手の注意力が高まっていないとうまくいかないことがあります。そこで、欲求をわざと中断して、相手の注意力を高める方法があります。

何かの原因で、それまで喜んでやっていたことを止められると、欲求不満に陥る。そして、欲求は、中断される前よりもっと激しくなる。

コミュニケーションの技術として、こういう心理を使うこともありえます。

映画や本の宣伝などもそういうテクニックを使っていますね。いいところだけ見せて、買いたくなる気持ちを高めるわけ。

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中断欲求の例を拙著『リーダー感覚』から。

◆オレンジタルトの呪縛
私を含む数名のコンサルタントと二人のクライアントが、昼食をとったときのことである。

食事が終わるとケーキを乗せたワゴンがやってきた。どうしてそうなったのか思い出せないのだが、何かのはずみで、クライアントではなく、我々スタッフからケーキを選ぶことになった。
 
特に、うまそうに見えたのがオレンジ・タルトだった。こいつは秀悦で、あたり一面が黄金色に輝いていた。

誰の目にもそれは明らかだったから、みなそれからピックアップしていく。コンサルタントの中で私は最後だったため、私の番がきたときには、オレンジ・タルトは二つしか残っていなかった。

やっときた――そう思ったとき、私はふと二人のクライアントと目が合った。すると、彼らもオレンジ・タルトをほしそうな目つきをしているではないか。
 
オレンジ・タルトはあと二つ。人間は三人。仕事をするより真剣に計算したが、どうしても足りない。一縷の望みをかけて再度計算し直したが、どうしても数が合わない。

ここに至っては是非もなし。私はやむなくチョコレート・ケーキを選んだ。案の定、クライエントたちはオレンジ・タルトを選び、幸せそうな顔をしていた。
 
帰り道、私は上司に言った。
「オレンジ・タルトは実にうまそうだったなあ。クライアントがほしそうな顔をしていたから譲ったけれど……」

上司はハッとして、クライアントの扱いにミスがあったと、ようやく気がついたようである。

それから、しばらくの間、食事になると私の頭にオレンジ・タルトが浮かんだ。

数日後、上司が例のレストランに行こうと私を誘い、「好きなだけオレンジ・タルトを食べていいぞ」と言ってくれた。

私はお言葉に甘え、オレンジ・タルトをいただいた。もっとも、いくら好きなだけ食べていいとは言われても、また、大の甘党の私であっても、世間体というものがある。それに食後のことだ。四つも五つもは無理だ。

しかし、ともかくも、これでようやく私はオレンジ・タルトの呪縛から切り離されたのである。

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■リーダーシップ向上に関する参考書籍 

佐藤直曉著『リーダー感覚――人を指導する喜び』(鳥影社)

本書はL研リーダースクールの通信講座初等科Ⅰのメインテキストです。初等科Ⅰでは、人の心を動かす訓練としてほめる訓練を実践していただきます。この講座は、受講生に技術的アドバイスを行うとともに、受講生の成長を見守っていく実践型プログラムです。

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