コミュニケーションスキル:ほめる技術と暗示技術

今日は拙著『伝動戦略』から、私の体験事例をもってきましょう。

ある地方自治体で経営問題の研究会が設けられ、その委員として私にお誘いがかかったときのことです。

この研究会の委員のなかに、妙に服装にこだわっている学者先生がおりました。ある日などは、ジャケットから靴下まで完璧に茶系統に統一してきた。もっともご当人の意図とは違って、ちょっとやり過ぎという感が私には強かったのです。

会議が終った後、エレベーターでこの先生と一緒になって、私はつい話しかけてしまいました。

「先生、今日はベージュで統一されていますね」

ほめようとか、気に入られようとかいう気持ちはまったくなかったのですが、沈黙の苦痛から、つい言葉が出ちゃったのです。

すると、この先生は大きくうなずいた。ようやく自分の高尚な趣味を理解できる人間を見つけたかのように。

これ以来、私はこの先生からすっかり気に入られてしまいました。ただ、副作用が一つあって、会うたびに服装をほめるように暗に催促するのです。

このときから、私はほめるということは、いったいどういうことなんだろうと興味をもちました。

私は「ベージュで統一している」とは言っても、「いい洋服ですね」とか「よくお似合いですね」などとは全然言っていない。本音はあまりセンスがないなと思っているくらいなのです。ただ、色を統一していると思ったのは事実です。

それなのに、先生は勝手にほめられていると思っている。おもしろいですねえ、人間の心理というのは。

どうやら、先生は「着こなしの能力」をほめられたと思ったらしいのです。

しかも、私は「着こなしの能力がずばらしい」とも言っていない。しいていえば「着こなしている」事実を指摘しただけです。

ところが、鏡に向かって必死であれこれやってきたであろう先生にとっては、その事実(色が統一している)を指摘されただけで、自分の努力が認められたと思ってしまうわけです。

これはまあ私の得意とする暗示効果でもありますね。

事実を提示したことで、相手に勝手に「自分の能力が、努力が評価されたのだ」というイメージがわいてしまったのです。

考えてみれば、この事例が拙著『リーダーの暗示学』へと展開していくともいえます。

暗示技術とは