コミュニケーションツールとしてのほめる技術再考

ある雑誌の広告文にこういうものがありました。

「初対面の人→先入観を捨て、会話の中で自然にほめる。
地位の高い人→小細工は逆効果、自分の視点でほめる。
若手社員→絶対評価が鉄則、未来につながる一歩をほめる。
成績の悪い人→あえて難しい課題を与えてほめる」

広告だけで中味を見ずに評価するのはあまりフェアとはいえませんが、これを見る限りいまいちですね。

初対面の人のケース以外は、全部50点か60点。

その理由は拙著『リーダー感覚』のほめる技術を読んでいただければわかりますが、解説しておきましょう。

地位の高い人で小細工は逆効果。これは妥当です。しかし、自分の視点でほめてもあまり効果はありません。

もちろん、効果のある人もいますが、まったく効果がないどころか、逆効果の人もいます。そこを下の者は見通せるでしょうか。

自分より下の人間にほめられても、たいていはあまりうれしくないものなのです。王さんや長嶋さんが現役のとき、新人選手に「振りが速い。感歎しました」と言われても喜んだでしょうか。「フン、フン」と聞き流す程度のものでしょう。

ほめられるのが大好きな上司もいますが、これは捻れ型以外はあまりいません。「何にも知らんくせによく言うな」などと、腹のうちで思われることはよくあります。

ですから、自分より上の人間をうかつにほめるのはリスクが大きいと知るべきです。

では、上司にはどう対処したらよいか? それは拙著を読んでください。

次に、「若手社員→絶対評価が鉄則、未来につながる一歩をほめる」ですが、これは文面だけでは私には意味不明です。あるいは、私の言う「認める技術」のことかもしれません。

いずれにしろ、絶対評価でなくても、情動的にほめるのだってありえます。それこそ相手次第です。どういう相手かということが見えないことには始まらない。

未来につながる一歩でなくても、ほめてかまわないと思いますよ。要はやる気さえでればいいんですから。やる気が出れば、あとは相手が勝手にがんばるでしょう。

ではどうほめるか。ほめるときは、相手が自分が優れていると思っているところをピタリと当ててやることが鉄則なんです。そうすると心に響くんですね。別に絶対評価でないといけないなんてことはないですね。

この手のハウツウ的なもので最も危ないことは、相手を観る訓練をあまりしていない人に、安易にステレオタイプの手段を提示することです。

いちばん大事なのは、相手の特質を考えてほめること。

特質がわからない相手を見る能力のない人がいくらほめても心に響かないものなのです。闇夜に鉄砲を撃つようなものです。

最後の「成績の悪い人→あえて難しい課題を与えてほめる」なんかは最低ですね。こういうものを書く人の見識が疑われます。

成績の悪い人はいじけきっていますから、難しい課題を与えられたら、その段階で挫折してしまう可能性が非常に高い。

よほど負けじ魂の強い人でないと、ほめる前にいなくなりますよ。それが目的なら、それでいいのでしょうが。

どうしたらいいかは、拙著をよくお読みください。拙著の野村監督の阪神時代の失敗例が参考になるでしょう。

私はハウツウものは嫌いなんです。基本的に、人間を観る力を養成しないと、リーダーが部下のやる気を出させるのは難しいと思っています。

でも、どんどんほめる練習をするのはお薦めしますよ。いろいろ成功や失敗体験を重ねると、だんだん人間が見えてくることがありますから。

ただ、初対面の人にはこう、若手にはこう、成績の悪い人にはこう、と言った具合にステレオタイプに練習していては進歩しません。ある程度ほめる技術の理論を学びながら実践してください。そうしたい人には私の本はピッタリなんですが。ちょっと手前味噌を並べすぎましたかね。