感受性に基づいて相手のやる気を引き出す

暗示といってもそれほど難しいことではありません。要は、相手にこちらの狙いどおりの空想を与えること。

空想が生まれると、それに沿って人間行動が起きるので、暗示はリーダーにとってとても重要なコミュニケーション技術となります。

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以下は拙著「リーダーの暗示学」よりもってきました。

レポートの提出期限が迫っているのに、少しも筆が進まず悩んでいる人がいた。その人が私に「どうしよう」と、相談するともなく話しかけてきた。

私はとっさにこう答えた。

「君は学生時代、試験の目前になると、徹夜、徹夜の連続で、いつも切り抜けてきたではないか。しかも、準備していないわりに、成績は優秀だった。君はあまり準備してやるタイプではない。要領よくサッと瞬発力でやるタイプなのだから、きっと今度も大丈夫だよ」

これは、本人が自分の性格や行動パターンを自認している場合の言葉かけであり、暗示なのである。

つまり、相手に、自分の性格どおりにやればうまくいくと示唆する暗示である。

実は、この人は利害損得・合理性に敏感に反応するタイプ(前後型5種のこと)であった。そこで私は、今の状況が、その人の感受性にぴったりかなっていると指摘したのである。

この場合、相手も自分の感受性傾向を知っていたから、私の暗示は無理のないものと受け止められたのである。

とにかく、こういう人は期限ギリギリにならないとやる気にならないのだから、良くも悪くもこう言うしかないと私は思ったのである。ただ、私はそれだけでは少し心配だったので、そのあとこうつけ加えた。

「書けなくともいいから、一日五分でいいから、とにかく机に座って、なんでもいいから思いついたことを書いてみろ」

これは、小さな行動をとらせながら、だんだん本気にさせていく暗示である。これについては、あとの項で説明する。

その人が私の言うとおりやったかどうかは疑わしいが、目に輝きが現れていたから、少なくとも元気はわいたはずだ。

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このように感受性を利用しながら相手にアドバイスをすることは、とても効果があります。

このケースで私がやったことは、要するに「まあ、がんばりなさい」と言っただけです。勇気が出ればあとは本人ががんばるでしょう。こちらができるのはそこまでです。そこから先は本人次第。

相手が聞く耳をもっているかどうかで対応を変える

今日はコミュニケーションというよりは、リーダーや教師の指導における課題というようにお考えください。

人間は基本的に人の話を聞くのはいやなものと考えるべきでしょう。

だから、人の話を聞くのは、その気になるときだけ。

相手がその気になって聞いているときだけが、リーダーの言葉が役に立つとき、ということでもありますね。

ですから、相手に聞く気があるかどうかをよく見て、何か言うということも大事です。

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相手が聞く気がないといっても、悪意ではない場合もあります。

そもそも、理解できない状態というのがあります。

たとえば、私の書いた『先見力訓練法』。

私自身はそんなに難しい内容が含まれているとは思っていないのですが、「難しい」とよく言われました。

しかし、そういう人もあとから、「ああ、そういうことだったのか」と分かってくれました。

その人に言わせると、私の本を理解するためのいろいろな前提が20代のころはまだ不足していて、30台半ばになってようやく理解できるようになった、ということです。

この本はいろいろな社会現象を含んでいるため、社会行動の基本的なとらえかたなどが問題だったのかも知れません。

ともかく、ある基本条件が準備されていないと、何か言ってもなかなか理解できないものです。

また、頭ではわかったつもりでも、それが使えるかとなると、また別問題です。

それが、ある体験によって、「ああ、先生の言っていたことはこういうことだったのか」と腑に落ちることがよくあります。

そうなった段階になって、ようやくその知識を使えるようになるわけです。

私自身もいまでもそういうことはよくあります。まあ、人によってはこれを「気づき」と呼ぶかもしれません。

以上のことをまとめますと、指導する側は相手が聞く耳にあるかどうかを見極める必要があります。

聞く耳があるなら、それに対して適切な指導なりコミュニケーションをとればよいわけです。これは感受性に応じてコミュニケーションをとるのがよいでしょう。

問題は、相手が聞く耳がない、あるいはまだ聞ける状態でない場合。こういうときどうするか。

いろいろなテクニックもあります。それについては拙著『リーダー感覚』に、「機、度、間を考える」というような項がありますので参考にしてください。

また、『リーダーの暗示学』の第7章には、おもしろい例を載せています。

たとえばコマーシャルの効果ということですが、私は高橋英樹さんの越後製菓のおもちのCMがいちばん効果的だと思っています。

なんのことはないコマーシャルです。ただ「正解!越後製菓」の連呼なんです。

しかし、単純なフレーズを繰り返していくと、いつのまにか潜在意識にしみ込んでいきます。この場合、単純なほどよい。

そのフレーズが、あるとき何かの体験と結びつくわけですね。

たとえば、スーパーに行って、たまたま越後製菓のもちを見たときとかですね。つまり、このフレーズは一種の伏線的な効果をもたらすわけです。

詳しい説明はここでは省きますが、世の中にはいろいろ参考になることがありますから、視野を広げて他分野の成功例などを研究することはとてもよいことです。

チームメンバーに奮闘をうながすコミュニケーションを行うとき

だいたい気が弱っている相手、自信を失っている相手に対して、奮闘を求めるような課題を提示するのはあまりよくないものです。

しかも、こういうとき、そのような課題をしくじると、二度と立ちあがれなくなります。

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では、奮闘をうながすような課題はいつ提示したらよいかというと、だいたいこんな条件でしょう。

1)ある程度の実績がすでにあって、やればなんとかやりようがあるかもしれない、とメンバーが多少なりとも自信をもっているとき

2)あと少しでゴールに達成できるという状態のとき

3)ここで一踏ん張りすれば、大きな成果が期待できる、局面が転換できるというとき

したがって、リーダーはこういう条件、特に1の条件をつくることを先にやっておかなければなりません。

簡単なことから自信をつけさせていくことをしばらく続ける必要があります。

そして、いよいよその条件が整ったとき、奮闘の言葉――といってもただ情熱で訴えかけるだけではなく――

「この山さえ越えれば、明るい未来が待っているぞ」という言い方が大事になります。

明るい未来を暗示するのです。

明るい未来を初期に提示してもあまり信用されません(提示するのは構いませんが)。

やはり、はじめはコツコツ成果をあげていくことに尽きますね。

ビジョンはあまり信用されません。プロセスが示されないと信用されないし、プロセスの課題がフェース毎によく考えられていないと、これまた信用されませんね。